→呼吸を促す繊毛運動が停止するのは、生物がもつ刺激変換器が反応するからだった
あまりにもビックリすると、息が一瞬止まることがありますよね。

実は、驚いて息を止めてしまうのは人間だけではありません。海産動物であるホヤも驚きで息を止めてしまうことがあるのです。
これまで、ホヤが息を止めてしまう仕組みは謎でしたが、日本の弘前大学農学部生命科学部の西野敦雄准教授らは、その仕組みを解明しました。
ホヤの呼吸停止は、ヒトの脳や免疫系で重要な役割をもつ受容体が、繊毛の動きを止めることから生じていたのです。
研究の詳細は、3月27日「Journal of Experimental Biology 」誌に掲載されています。
An α7-related nicotinic acetylcholine receptor mediates the ciliary arrest response in pharyngeal gill slits of Ciona
https://jeb.biologists.org/content/early/2020/03/27/jeb.209320
■ホヤは繊毛運動によって呼吸している
ホヤとは海に生息する海産動物です。貝だと思われがちですが、実は動物に近い脊索動物の一種として分類されています。
心臓、生殖器官、神経節、消化器官などを持っており、生物学の研究材料として有用な存在です。
ホヤは「入水孔」から新鮮な水を取りこみ、酸素とエサを摂取したあと、「出水孔」から不要になった水と糞を一緒に排出します。

つまり、ホヤにとっての「呼吸」とは、入水孔から出水孔に至るまでの一連の水流だと言えるでしょう。
そして、この水流を生み出しているのが、ホヤのえらに無数に生えている「繊毛」です。
繊毛は細胞小器官の1つで、毛のような見た目をしています。これらが激しく動く(繊毛運動)ことで、水流が生まれ呼吸できているのです。
実は、この繊毛は多くの生物が備えている普遍的な生理機能です。
例えば、人間の場合、腎臓から尿を掻き流す時や、気管に入り込んだ異物を掻き流す時に、繊毛運動が起きています。
■ホヤを驚かせると呼吸が止まる
ホヤの入水孔や出水孔など敏感な部分を触って驚かせると、繊毛運動が急に止まることがあります。繊毛運動が止まるので、当然、呼吸も止まります。

この作用自体は以前から知られていましたが、その仕組みの詳細は不明でした。これは、他の生物の繊毛運動停止にも共通することです。
この点を調査するために、西野氏らはホヤのえら組織を使った実験を行ないました。
実験では、繊毛運動を継続させた状態で、繊毛細胞を露出させました。
そして、その部分に神経伝達物質であるアセチルコリンを噴射することで、効率的に繊毛運動を停止できることを発見しました。
さらに、アセチルコリンを感知する遺伝子を分析することで、ホヤが持つ「α7型アセチルコリン受容体」こそが、神経入力に応じて繊毛停止反応を引き起こすと原因だと判明したのです。
受容体とは、刺激を情報に変換する構造のことです。ですから、ホヤが驚いたときの刺激が特定の受容体に伝わり情報に変換され、その情報が繊毛を停止させたことになります。
「α7型アセチルコリン受容体」は、人間においては脳や免疫系の細胞に対して機能しており、アルツハイマー病や統合失調症、記憶の形成、ガンの進行などにも関与しています。
また、繊毛運動の破綻は、「腎嚢胞」などの病気の原因になります。ですから、その仕組みの解明は、今後の医療に大きく役立つと考えられています。
https://nazology.net/archives/56459