
狩猟採集生活では、毎日違う猟場に出向いて獲物を探す。食糧が手に入るかどうか、毎日が挑戦だ。知識と創造力を駆使して、一家を養うだけの食べ物を手に入れなければならない。
比べて、農耕定住生活は単調だ。季節ごとにやるべき仕事が決まっていて、同じような毎日を延々と繰り返すことになる。
そもそも、農耕は人類を豊かにしたのだろうか?
どうやらそうでもないらしい。というのも、農耕の開始によって人々の栄養状態は悪化し、死亡率は上昇したからだ。狩猟採集生活では、人々は多種多様な食物を口にする。
ところが、農耕定住生活では食事がデンプン質に偏るようになり、人々は充分な栄養を取れなくなった。ある古人骨の研究によれば、狩猟民の定住農耕化によって、
体格、身長、骨密度のすべてが低下したという。さらに、農耕定住生活では人口密度が高くなるため、疫病が蔓延しやすくなり、死亡率が跳ね上がった[20]。
では、なぜ農耕定住生活のほうが優勢になったのかといえば、死亡率以上に出生率が上昇したからだ。
狩猟採集生活では幼い子供を連れて移動するため、乳離れに時間がかかる。一方、農耕定住生活では子供をすばやく乳離れさせて、出産の間隔をより短く、生涯で産める子供の数をより多くできる。
たとえば1963年~73年に北ボツワナのクンサン族を対象に行われた研究がある。 当時、クンサン族は狩猟採集生活から農耕生活へと転換しているさなかだった。定住した女性の出産間隔は36ヶ月で、狩猟採集民の44ヶ月に比べてかなり短かかった[21]。
女性の出産間隔が短くなると、合計特殊出生率が上昇し、ひいては人口増加率を押し上げる。狩猟採集民族の人口はきわめて遅いペースでしか増加せず、年間およそ0.015%だ。
この割合では、人口が2倍になるのに約5000年、4倍になるのに約1万年かかる。比べて、初期の農民の人口成長率は狩猟採集民族の2倍ほどだったと推測されており、1万年で人口が32倍に増える計算だ[22]。
農耕が広まったのは、それが人々を豊かにする生活だったからではない。人口増加率が高かったために、狩猟採集民族を圧倒することができたからだ。
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