西鉄天神大牟田線の線路高架化事業を巡り、隣り合う工区でそれぞれ事業主体となっている福岡県と福岡市の間に不協和音が生じている。きっかけは、県所管工区の完成時期が予定より1年5カ月遅れになったこと。同時期に完成させる計画のため、市所管工区の高架化もずれ込む見通しとなった。市は「遅延は県の責任」として、周辺で深刻化している交通渋滞緩和のための追加工費1億円超を県に要求したが、県は拒否。関係が冷え切っている両者の新たな対立の火種となる可能性もある。
高架化事業は、踏切撤去による渋滞解消が目的。県の工区は春日原(同県春日市)-下大利(同県大野城市)間の3・3キロ、福岡市の工区は大野城市と接する地点から博多区内への1・86キロだ。総事業費は県分が557億円、福岡市分が415億円。2021年3月に、両工区同時に完成予定だった。
遅延の主因は昨年、春日原駅の新駅舎を造る過程で、旧駅舎ホームの地下から想定外のコンクリート基礎が見つかったこと。10月に工事委託先の西日本鉄道(同市)から高架化が2年遅れるとの申し入れを受けた県は、専門家を交えた検証委員会を設置。検証委は今年4月、施工手順の見直しなどで遅れを7カ月短縮し、22年8月に完了するとの報告書を公表した。「コンクリート基礎は設計図にはなく予見できなかった」と結論付け、遅延について県の責任を事実上否定した。
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高架化工事の遅れは、交通渋滞に耐え続ける福岡市の沿線住民にさらなる負担を強いることになる。
高架化工事に伴い、19年2月、博多区の筑紫通りの陸橋を利用できなくし、仮設道路と踏切に切り替えたことで渋滞が慢性化。午前8時台の踏切の遮断時間は38分に上る。通学路に迂回(うかい)する車が増え、児童らの横を速度超過で走り抜けるドライバーも後を絶たない。
市の計画では、高架化と同時に踏切を廃止し、その1年後の22年3月には陸橋を解体した上で、地上に新たな筑紫通りを開通させる計画だった。だが、これも23年8月まで先送りになった。
市は渋滞を早期に緩和するため、陸橋の撤去と筑紫通りの開通を1年ほど前倒しすることを検討。深夜工事の人件費や安全対策費など、陸橋撤去の追加費用のみを県に求めている。今月7日、市議らが調整役となり、住民代表が地元国会議員と県議への陳情会を開催。「遅れの原因は県。渋滞緩和策を講じてほしい」との声が相次いだ。
これに対し、県は車の流入減少につながる市外の道路整備は検討するとしつつ、市の工区の追加工費については「事業主体が負担するのが原則。肩代わりできない」との立場だ。高架化事業を巡っては、県は後から手を挙げた市に合わせるため、完成時期を当初計画から2年9カ月遅らせた経緯がある。このとき市に追加負担を求めなかった、との言い分も県にはある。
国土交通省九州地方整備局は「隣接する鉄道工区を異なる事業主体が手がけるのは全国的に例がない。県と市がよく協議して解決するしかない」と干渉しない構えだ。
(前田倫之)
西日本新聞 社2020/6/23 6:04 (2020/6/23 7:10 更新)
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